一人親方が労災保険に未加入?加入せずに被災したとき。
一人親方にとって労災保険は任意の制度です。
しかし、未加入の場合には治療費負担が生じたり、休業補償が受けられなかったりするなど、通勤や業務中のケガ・病気をしてしまったときのリスクが大きくなります。
さらに、一人親方としての仕事の受注に影響するケースさえあります。
一人親方が労災保険に未加入だとどうなる?そのリスクとは?
一人親方が労災保険未加入の場合にはどのようなリスクが生じるのでしょうか?普段、健康に過ごしていると、いざ病気やケガをしてしまったときのことはなかなか想定しづらいものです。
業務上のケガ・病気の治療費が自己負担になる
大きなケガをしてしまった場合に、労災保険に加入していない場合には、医療機関での治療費や薬科代が自己負担になります。現場でどんなに注意を払っていても、業務の際にケガや病気を絶対しないわけではありません。不運な事故に遭遇したり病気を発症したりなど、ケガや病気の状態になってしまうことがあります。
もしもケガや病気の状態になれば、速やかに病院を受診して治療を始める必要があります。治療したら治療費を支払わなければいけませんが、労災保険に未加入の場合は治療費がすべて自己負担です。また、ケガや病気が重いものになったとき、治療費が高額に上るケースも少なくありません。
休業(就業不能)補償が受けられない
休業補償(就業不能)とは、ケガや病気が原因で仕事ができないときの収入減少を補填してくれる制度です。労災保険には休業補償制度がありますが、未加入者はこの補償を受けられません。つまり、業務中に大きなケガや病気をしたときには、治療費を全額負担すると同時にご自身の収入がなくなることになります。二重の苦しみを受けると言っても良いでしょう。特に、一人親方の皆さんにとっては、重いダメージとなるでしょう。
多彩な補償が受けられない
労災保険の給付は7種類あり、「そのほかの給付」も合わせると8種類あります。
労災保険には、多彩な補償が設けられていますが、未加入の場合には当然すべての補償給付が受けられなくなります。補償内容別に、未加入のリスクをご紹介します。
傷病(補償)年金
障害(補償)給付
遺族(補償)給付
祭料(葬祭)給付
介護(補償)給付
労災保険がカバーする範囲が広いからこそ、未加入の場合に生じるリスクの幅もかなり幅広くなります。
療養補償給付、療養給付
労働災害によるケガや病気が治癒するまでの費用(医療費)が給付されます。
労災病院での受診は自己負担なしで受けられます。
給付額:治癒までに必要な療養または医療費の全額
休業補償給付、休業給付
労働災害による傷病によって仕事を休業した日が4日以上続いた場合に給付されます。
休業してから3日間は待期期間とされ、業務災害の場合は事業主が休業補償を行う義務を負います。
給付額:休業1日につき給付基礎日額の80%相当(休業(補償)給付として給付基礎日額の60%、休業特別支給金として給付基礎日額の20%)
障害補償給付、障害給付
労働災害による傷病によって後遺障害が残った場合の補償です。
障害等級第1級から第7級までに該当する障害が残った場合は年金、障害等級第8級から第14級までに該当する障害が残った場合には一時金として給付されます。
給付額:障害等級第1級から第7級の場合は、障害(補償)年金として給付基礎日額の131日〜313日分と、障害特別支給金として159万円~342万円、障害特別年金として131日〜313日分
障害等級第8級から第14級の場合は、障害(補償)一時金として給付基礎日額の56日~503日分と、障害特別支給金として8万円~65万円、障害特別一時金として算定基礎日額の56日~503日分
遺族補償給付、遺族給付
労働災害で一人親方が死亡した場合、遺族に対して年金または一時金が給付されます。
一人親方の死亡当時、一人親方の収入によって生計を維持していた遺族(妻以外の遺族は一定の高齢または年少であるか、あるいは一定の障害の状態の条件を満たした方)が対象の遺族(受給権者)となります。
給付額:受給権者がいる場合は、遺族(補償)年金として遺族の人数などに応じ、給付基礎日額の153日~245日分、遺族特別年金として算定基礎日額の153日~245日分、遺族特別支給金として遺族の人数にかかわらず一律300万円
受給権者がいない場合、または受給権者が受給権を失権し他に受給権者がいない場合かつすでに支給された年金の合計額が1,000日分に満たない場合は、遺族補償一時金として給付基礎日額1,000日分(既に支給額がある場合は差し引いた額)、遺族特別一時金として算定基礎日額の1,000日分(既に支給額がある場合は差し引いた額)、遺族の数にかかわらず一律300万円(受給権者がいない場合のみ)
葬祭料、葬祭給付
労働災害で一人親方が死亡した場合、葬祭を行う人に対して葬儀を行うための費用として給付されます。
給付額:31.5万円+給付基礎日額の30日分(その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合は、給付基礎日額の60日分)
傷病補償年金、傷病年金
労働災害による傷病が特に重く、事故から1年6ヵ月を過ぎても治癒(症状固定)しない場合、傷病等級第1級から第3級に該当する障害が残った場合に給付されます。
給付額:傷病(補償)年金として給付基礎日額の245日〜313日分、傷病特別支給金として100万円〜114万円、傷病特別年金として算定基礎日額の245日〜313日分
介護補償給付、介護給付
障害(補償)年金と傷病(補償)年金の受給者のなかでも特に障害の程度が重い障害等級第1級と第2級の精神神経障害や胸腹部臓器の障害があり、現に介護を受けている場合に給付されます。
給付額:常時介護の場合は介護の費用として支出した額(月額上限171,650円)、親族などによる介護の場合、介護支出が75,290円以下の場合は月額75,290円
随時介護の場合は前者の上限85,780円、後者37,600円
(令和4年4月時点の金額です。最新の金額は厚生労働省ホームページをご確認ください)
現場に入れないことがある
一人親方と契約する元請け企業には、ガイドラインによって安全配慮義務が課せられています。安全配慮義務の中には労災保険への加入が含まれているため、未加入の一人親方とは契約は避けられがちです。労災保険未加入であるにもかかわらず契約を結んだら、ガイドラインに反するためです。
特にガイドラインの遵守を徹底する大手企業や大規模な案件では、そのような傾向が顕著です。もしも現場に入れなければ、一人親方は仕事の範囲が狭まり、安定的に案件を受注できなくなります。