労災保険の保険給付について
療養(補償)給付(治療費等)
一人親方が業務上の事由によりケガをした場合・疾病にかかった場合、あるいは通勤途上にケガをした場合に医療機関で治療等を受けることができます。これら治療費は療養補償給付又は療養給付と言います。療養補償給付は業務災害の場合、療養給付は通勤災害の場合ですが、給付の内容に違いはありません。
療養(補償)給付の保険給付の範囲
療養補償給付・療養給付は病院やクリニックでの治療や薬の処方に留まらず給付の範囲は非常に範囲が広く下記の給付が無料行われます。
- 診察
- 薬剤・治療材料の支給
- 処置・手術・治療
- 居宅における療養上の管理・世話・看護
- 入院における療養上の管理・世話・看護
- 移送
手続の仕方
一人親方が治療等を受けるにあたって、まず最初に大事なことは利用する医療機関が労災指定かどうかです。労災指定の場合で医療機関が指定した日までに労災の手続きを終えた場合は窓口での負担なしで治療等を受けられます。これを現物給付と言います。しかし、労災指定外の場合や医療機関が指定した日までに労災の手続きを終えなかった場合は窓口で治療費を一旦全額支払います。その後支払った費用を国(労働基準監督署)に請求します。こちらを現金給付と言います。現物給付が利用できる場合は現物給付の利用をお勧めいたします。
現物給付の場合、業務災害と通勤災害とで用紙が異なります。具体的には次の4種類です。
- 業務災害(初診の医療機関):療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付請求書 業務災害用・複数業務要因災害用
- 業務災害(転院の医療機関):療養補償給付及び複数事業労働者療養給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届
- 通勤災害(初診の医療機関):療養給付たる療養の給付請求書 通勤災害用
- 通勤災害(転院の医療機関):療養給付たる療養の給付を受ける指定病院等(変更)届
上記の用紙にもれなく記載をして医療機関に提出すると窓口での負担がなく療養を受けることができます。労災事故の場合、緊急を要するケースが多く療養を受けるまでに用紙準備が間に合わない場合があります。その際は医療機関に労災保険の使用を予定していることと後日用紙を提出します旨を伝えます。その後の対応は医療機関によって異なりますので医療機関の指示に従ってください。
現金給付とは?
現金給付の説明を致します。療養の給付の内容によっては現金給付しか選択できない場合があります。具体的には下記に掲げる給付を受けた場合はかかった費用の全額を一旦支払う必要があります。その後、書類に必要事項を記入し領収書などの必要書類を添付の上労働基準監督署へ提出します。
- 労災指定外の医療機関で治療を受けた場合
- 労災指定外の薬局で薬の処方を受けた場合
- 柔道整復師や鍼灸師の施術を受けた場合
- 訪問看護事業者から訪問看護を受けた場合
- 医師の指示のもとコルセット等治療用装具を購入した場合
- 医療機関までの通院費を請求する場合
- 労災保険を使用せずに他の保険を使用した場合
なお、このうち3の柔道整復師や鍼灸師が労災指定の場合は現物給付とすることができます。
保険給付の期間
治療等を受けることができる期間ですが、これは治癒するまでとされています。ちなみに、治癒とは負傷・疾病が完全に治った状態を言うのではなく、これ以上治療等を行っても回復も改善もしないという状態を言います。
休業した場合の補償
休業に関する補償として労災保険には休業補償給付(業務災害の場合)・休業給付(通勤災害の場合)が用意されております。これは一般的には業務上または通勤による傷病により、療養のために労働することができないために、賃金を受けない日が4日以上になる、という3つの条件がそろった場合に支給されます。
最後の「賃金を受けない日が4日以上になる」という条件ですが、一人親方の場合は請負契約で仕事をしている関係上この条件のうち「賃金を受けない」という部分は不要です。つまり、一人親方の場合は業務上または通勤による傷病により、療養のために労働することができないために、休業が4日以上になると読み替えます。
休業(補償)給付の支給金額
休業に関する補償は1日あたり給付基礎日額の8割となっております。厳密に言うと休業(補償)給付が6割、休業特別支給金が2割となっており、合計して8割となります。給付基礎日額というのは一人親方の労災保険に特別加入するにあたり、または更新するにあたりご選択いただいたものです。休業補償にもこの給付基礎日額を使用して支給額を算出いたします。
例えば、給付基礎日額7000円の方が8月1日にケガをして翌日から休み始めて9月10日に仕事復帰した場合を考えてみましょう。
- 8月2日から9月9日までの暦日数:39日
- 給付基礎日額7000円の8割:5600円
休業補償給付・休業給付の支給額は5600円×39日=218,400円
手続の仕方
支給申請にあたり医師の証明(「いつからいつまで労務不能です」というようなもの)が必要となります。休業補償は生活費の補填という意味合いが大きいため、休業期間が長引く場合は月を単位として1か月ごとに申請することが多いようです。そのため申請の都度医師の証明を受ける必要があります。また、一般の労働者ならタイムカードや賃金台帳というものがありますが、一人親方の場合個人事業主であるためタイムカードや賃金台帳と言った類のものがありません。そのため、労働基準監督署によっては別途書類を求められるケースがあります。
支給期間
休業補償給付・休業級の支給申請した後、支給が決定され給付金が振り込まれるまでの期間ですが、初回の請求については大体1か月とお考えください。ただ事案によってはもう少しかかる場合もあります。2回目以降は初回程時間がかかりません。ちなみに、給付金が支給される期間ですが、これは治療費等と同様に治癒するまでとされています。
労災事故での休業において1日休業ではなく一部休業することもあります。通常の労働者の労災事故の場合は一部休業であっても休業補償給付・休業給付の支給はありますが、一人親方の場合は一部休業というのはありません。
労働基準法との関係
休業補償給付・休業給付は休業4日目から支給対象となると説明いたしました。3日間はどうなるのでしょうか?このへんについて最後に説明いたします。業務災害において3日間は事業主が休業補償をするように労働基準法に定められております。つまり、最初の3日間は事業主が休業補償を行い、4日目から労災保険が休業補償を行うことになります。ただし、通勤災害にはこのような規定はありません。また、一人親方は特別に労災保険を適用させて労災保険加入の道を拓いておりますが、労働基準法はそもそも対象外のため業務災害においても通勤災害において最初の3日間は補償対象外です。
休業が1年以上に及んだ時:傷病(補償)年金
傷病(補償)年金は療養開始後1年6か月を経過した日以降にケガや病気が治っておらず、傷病等級1級から3級のいずれかに該当した場合に支給されます。
傷病(補償)年金の支給金額
給付金額は傷病等級と給付基礎日額によって決まります。
傷病等級 | 支給金額(年金) |
---|---|
第1級 | 給付基礎日額の313日分 |
第2級 | 給付基礎日額の277日分 |
第3級 | 給付基礎日額の245日分 |
手続きの仕方
傷病(補償)年金の手続きは他の保険給付と異なり少し特殊です。療養開始後1年6か月を経過した時に「傷病の状態等に関する届」(様式第16号の2)の提出を求められます。この届を受けて労働基準監督署は引き続き休業(補償)給付を支給するか、または傷病(補償)年金の支給を開始するかを労働基準監督署長が職権で決定します。
引き続き休業(補償)給付の支給が支給されることとなった場合は、その後毎年1月に「傷病の状態等に関する報告書(様式第 16 号の 11)」の提出をする必要があります。そして、そこでも労働基準監督署は引き続き休業(補償)給付を支給するか、または傷病(補償)年金の支給を開始するかを決定します。
支給期間
傷病(補償)年金は休業(補償)給付に代えて支給されます。そのため、傷病(補償)年金も休業(補償)給付と同様に病気やケガが治癒するまで支給されます。
後遺症が残った場合
一人親方が労災事故により後遺症が残った場合に障害(補償)給付が支給されます。障害(補償)給付は治癒後に支給されるものです。そのため治療費等や休業補償を受けている間は支給されません。
障害(補償)給付の支給金額
給付金額は障害(補償)給付の障害等級と給付基礎日額によって決まります。障害等級1級から7級は障害(補償)年金、8級から14級は障害(補償)一時金です。年金は偶数月に障害がある限りは継続して支給されます。一時金は文字通り一回だけです。そのため7級と8級とでは非常に大きな差があります。
障害等級 | 支給金額(年金) |
---|---|
第1級 | 給付基礎日額の313日分 |
第2級 | 給付基礎日額の277日分 |
第3級 | 給付基礎日額の245日分 |
第4級 | 給付基礎日額の213日分 |
第5級 | 給付基礎日額の184日分 |
第6級 | 給付基礎日額の156日分 |
第7級 | 給付基礎日額の131日分 |
障害等級 | 支給金額(一時金) |
---|---|
8級 | 給付基礎日額の503日分 |
9級 | 給付基礎日額の391日分 |
10級 | 給付基礎日額の302日分 |
11級 | 給付基礎日額の223日分 |
12級 | 給付基礎日額の156日分 |
13級 | 給付基礎日額の101日分 |
14級 | 給付基礎日額の56日分 |
手続きの仕方
障害(補償)給付の申請あたっては一般の労働者も一人親方も違いはありません。申請書類を提出した後、障害等級を決めるという重要な審査があります。障害等級の決定にあたっては労働局の専門家との面談があるのが一般的です。そのため、提出から支給(不支給)の決定まで非常に長い期間が必要です。半年から1年ほどかかる場合もあります。
支給期間
障害等級が8級から14級までの障害(補償)一時金は一度きりですので支給したらそれで終了ですが、年金の場合はいつまでもらえるのか?という問題が生じます。障害(補償)年金は被災した方のその後の生活を維持するために支給するため、被災した方が存命し、かつ障害が残っている限り支給されます。
なお、障害(補償)年金を受給している方は年に1回定期的に障害の状態を労働基準監督署へ報告する必要があります。そのうえで新たな障害に該当することとなった場合は新たな障害等級に応じた年金又は一時金が支給されます。
障害特別支給金
障害(補償)給付には別途障害特別支給金というものがあります。休業の項のときに休業特別支給金の2割について説明しましたが、こちらはその障害(補償)給付版です。障害特別支給金は1級から14級すべて一時金となっております。障害等級によって金額が異なります。
障害等級 | 支給金額(一時金) |
---|---|
第1級 | 342万円 |
第2級 | 320万円 |
第3級 | 300万円 |
第4級 | 264万円 |
第5級 | 225万円 |
第6級 | 192万円 |
第7級 | 159万円 |
8級 | 65万円 |
9級 | 50万円 |
10級 | 39万円 |
11級 | 29万円 |
12級 | 20万円 |
13級 | 14万円 |
14級 | 8万円 |
障害特別年金・障害特別一時金
障害(補償)給付の受給権者に対して、障害特別年金・障害特別一時金として、障害等級の程度に応じて算定基礎日額を乗じた額が年金又は一時金として支給されます。
なお、算定基礎日額とは賞与の額を計算の基礎としています。そのため、そもそも賞与がない特別加入者には障害特別年金・障害特別一時金の支給はありません。
障害等級 | 支給金額(年金) |
---|---|
第1級 | 算定基礎日額の313日分 |
第2級 | 算定基礎日額の277日分 |
第3級 | 算定基礎日額の245日分 |
第4級 | 算定基礎日額の213日分 |
第5級 | 算定基礎日額の184日分 |
第6級 | 算定基礎日額の156日分 |
第7級 | 算定基礎日額の131日分 |
障害等級 | 支給金額(一時金) |
---|---|
8級 | 算定基礎日額の503日分 |
9級 | 算定基礎日額の391日分 |
10級 | 算定基礎日額の302日分 |
11級 | 算定基礎日額の223日分 |
12級 | 算定基礎日額の156日分 |
13級 | 算定基礎日額の101日分 |
14級 | 算定基礎日額の56日分 |
死亡した場合
一人親方が労災事故により死亡した場合に残された遺族に遺族(補償)給付が支給されます。この給付において重要なのはどういう人が「遺族」となるのかということです。遺族は一人とは限りません。死亡した方から見て配偶者・子供・親などそれぞれ関係性も異なります。
また、遺族(補償)給付には大別して遺族(補償)年金と遺族(補償)一時金の2種類があります。
遺族(補償)年金の支給金額
遺族(受給資格者)の人数 | 支給金額(年金) |
---|---|
1人 | 給付基礎日額の153日分 ただし、55歳以上の妻または一定の障害の状態にある妻の場合は給付基礎日額の175日分) |
2人 | 201日分 |
3人 | 223日分 |
4人以上 | 245日分 |
遺族(補償)一時金の給付金額
遺族(補償)一時金は遺族のうち最先順 位の者が年金を受けることができる遺族(受給権者)に支給されます。
遺族(補償)一時金は遺族(補償)年金を受給できる遺族が一人もいない場合、あるいは遺族(補償)一時金を受給していた遺族の受給資格が失権した場合(受給要件あり)に受給することができます。
給付の種類 | 支給金額(一時金) |
---|---|
被災者の死亡当時、受給資格者が一人もいなかった場合 | 給付基礎日額の1000日分 |
被災者の死亡当時、遺族(補償)年金を受給できる遺族がいたがその後失権し遺族(補償)年金の受給資格がなくなった場合 | すでに支払われた遺族(補償)年金の額の合計が1000日分に満たないときは、その差額が支給 |
遺族(補償)給付において遺族となる方
遺族とは配偶者・子・父母・孫・祖父母・兄弟姉妹を遺族、遺族(補償)給付では受給資格者と言います。このうち最先順位の者を受給権者と言い、遺族(補償)給付は受給権者が支給金額すべて受給します。
生計維持
生計維持とは遺族(補償)給付において被災者の収入によって生計を維持していたことを意味し、生活のすべてをその人の収入によって賄っていたことまでは要せず、一部でも問題ありません。したがって、共稼ぎでも生計維持要件はクリアすることになります。
単身赴任や子供への仕送りなど住居は別であっても定期的に仕送りをしているなどの事実があれば生計維持関係は認められますが、明らかに別生計である場合は生計維持関係の認定は難しいでしょう。
遺族特別支給金
遺族特別支給金は遺族の人数に関係なく受給資格者に一律300万円が支給されます。遺族(補償)給付が遺族(補償)年金であって、遺族(補償)一時金であっても一律300万円は変わりません。
遺族特別支給金
遺族(補償)給付の受給権者に対して、遺族特別年金・遺族特別一時金として、遺族の人数に応じて算定基礎日額を乗じた額が年金又は一時金として支給されます。
なお、算定基礎日額とは賞与の額を計算の基礎としています。そのため、そもそも賞与がない特別加入者には遺族特別年金・遺族特別一時金の支給はありません。
遺族の人数 | 支給金額(年金) |
---|---|
1人 | 算定基礎日額の153日分ただし、55歳以上の妻または一定の障害の状態にある妻の場合は算定基礎日額の175日分) |
2人 | 201日分 |
3人 | 223日分 |
4人以上 | 245日分 |
給付の種類 | 支給金額(一時金) |
---|---|
被災者の死亡当時、受給資格者が一人もいなかった場合 | 算定基礎日額の1000日分 |
被災者の死亡当時、遺族(補償)年金を受給できる遺族がいたがその後失権し遺族(補償)年金の受給資格がなくなった場合 | すでに支払われた遺族(補償)年金の額の合計が1000日分に満たないときは、その差額が支給 |
死亡した被災者の葬祭を行った場合
被災者が死亡した場合にその葬祭を行ったものに対して葬祭料として支給されます。業務災害で死亡した場合の給付を葬祭料、通勤災害で死亡した場合の給付を葬祭給付と言います。
葬祭料(葬祭給付)の支給金額
葬祭料(葬祭給付)の支給金額は次の計算式のいずれか高い方です。一人親方等の特別加入者の場合、給付基礎日額10000円までなら1脳方式、給付基礎日額12000円からは2の方式の方が給付金額は高いようです。
- 給付基礎日額の30日分+315,000円
- 給付基礎日額の60日分
被災者に介護が必要な場合
被災者が常時または随時介護を受ける状態にある場合にあり、実際に介護を受けている場合に支給されます。
介護(補償)給付の支給金額
介護(補償)給付の支給金額は常時介護が必要か、あるいは随時介護が必要かで支給金額が変わります。
介護の状態 | 給付要件 | 給付内容 |
---|---|---|
常時介護を必要とする者の場合 | 親族または友人・知人による介護を受けていないとき | 介護の費用として支出した額ただし、171,650円が上限(令和3年度) |
親族または友人・知人による介護を受けた日があるとき | 一律定額として73,090円支給(令和3年度) | |
随時介護を必要とする者の場合 | 親族または友人・知人による介護を受けていないとき | 介護の費用として支出した額ただし、85,780円が上限(令和3年度) |
親族または友人・知人による介護を受けた日があるとき | 一律定額として36,500円支給(令和3年度) |
労災保険の時効について
労災保険の保険給付には請求期限、いわゆる時効というものがあります。保険給付の種類によって2年の場合と5年の場合があります。
保険給付ごとの時効と時効の起算日
保険給付の種類 | 時効 | 時効の起算日 |
---|---|---|
療養(補償)給付 | 2年 | 療養の費用を支払った日ごとにその翌日 |
休業(補償)給付 | 2年 | 休業の日ごとにその翌日 |
傷病(補償)年金 | なし | 労働基準監督署長が職権で支給の可否を決定するため時効の問題は発生しません。 |
障害(補償)給付 | 5年 | 傷病が治癒(症状固定)した翌日 |
遺族(補償)給付 | 5年 | 労働者が死亡した日の翌日 |
葬祭料(葬祭給付) | 2年 | 労働者が死亡した日の翌日 |
介護(補償)給付 | 2年 | 介護補償給付の対象となる月の翌月の1日 |
※ 療養(補償)給付のうち療養の給付において労災指定医療機関等で窓口負担なく治療を受けた場合は時効の問題は発生しません。