危険有害な作業を行う建設事業主必須! 一人親方等請負人の保護措置が義務化されます。

最高裁第一小法廷判決は、建設アスベスト訴訟に関して、それまでの安衛法の常識を覆すような判断を下されました。すなわち、安衛法第57条及び第22条については労働者に該当しない者も保護する趣旨のものであるとの判断です。

判決は、直接、安衛法第22条が労働者に該当しない者について適用があるとしたものではありません。判決文中で「本件掲示義務規定」が労働者に該当しない者について適用があるとしました。

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労働安全衛生規則等の改正により、2023年4月1日から、危険有害な作業を行う事業者は、作業を請け負わせる一人親方等や、同じ場所で作業を行う労働者以外の人に対して、保護具の使用を周知するなど、一定の保護措置をとることが義務付けられます。

「危険有害な作業」とは、労働安全衛生規則や有機溶剤中毒予防規則など、11の省令によって労働者に対する健康障害防止のための保護措置の実施が、事業者に義務付けられている作業のことをいいます。

また、「同じ場所で作業を行う労働者以外の人」は、一人親方や他社の労働者だけでなく、資材の搬入業者や警備員など、事業者との契約関係の有無は問いません。

数次の請負が行われる場合、配慮義務や周知義務を負うのは、請負契約の相手方となる事業者である点に注意が必要です。例えば、三次下請に対する保護措置は二次下請の事業者が行う必要があります。

2023年4月1日から 危険有害な作業を行う事業者は以下の1,2に対して一定の保護措置が義務付けられます。

1 作業を請け負わせる一人親方等

2 同じ場所で作業を行う労働者以外の人

※ 危険有害な作業とは

労働安全衛生法第22条に関して定められている以下の11の省令で、労働者に対する健康障害防止のための保護措置の実施が義務付けられている作業(業務)が対象です。

・労働安全衛生規則 ・有機溶剤中毒予防規則 ・鉛中毒予防規則 ・四アルキル鉛中毒予防規則・特定化学物質障害予防規則・高気圧作業安全衛生規則・電離放射線障害防止規則・酸素欠乏症等防止規則 ・粉じん障害防止規則 ・石綿障害予防規則・東日本大震災により生じた放射線物質により汚染された土壌等を除染するための業務等に係る電離放射線障害防止規則

改正の背景

建設作業で石綿(アスベスト)にばく露し、肺がん等に罹患した元労働者や一人親方が、国を相手取り、規制が十分であったかが争われた「建設アスベスト訴訟」の最高裁判決において、石綿の規制根拠である安衛法第22条は、労働者だけでなく、同じ場所で働く労働者でない者も保護する趣旨との判断がされました。この最高裁判決を踏まえ、一人親方等の保護に関する法令改正が行われました。

保護対象の見直し

危険有害な作業を行う事業者は、以下の措置を講じなければならないこととする。

① 作業を請け負わせる一人親方等に対する措置の義務化

危険有害な作業の一部を請け負わせる場合は、請負人(一人親方、下請業者)に対しても、以下の措置の実施が義務付けられます。

・ 請負人だけが作業を行うときも、事業者が設置した局所排気装置等の設備を稼働させる(または請負人に設備の使用を許可する)等の配慮を行うこと
・ 特定の作業方法で行うことが義務付けられている作業については、請負人に対してもその作業方法を周知すること
・ 労働者に保護具を使用させる義務がある作業については、請負人に対しても保護具を使用する必要がある旨を周知すること

保護措置の主な内容

労働者に対する措置
(現行法令の規定内容)
請負人に対する措置
(新たに追加する規定内容)
有害物の発散防止の装置等の稼働作業中に稼働させる義務請負人のみが作業する時も稼働させ
る、使用を許可する等配慮する義務
マスク等の保護具の使用保護具を使用させる義務保護具の使用が必要である旨を周知
する義務(請負人に指揮命令はできないため周知事務)
安全確保のための作業方法の遵守作業方法を遵守させる義務作業方法の遵守が必要である旨を周
知する義務(請負人に指揮命令はできないため周知事務)
作業終了時の身体の汚染除去等汚染を除去させる義務汚染除去が必要である旨を周知する
義務(請負人に指揮命令はできないため周知事務)

② 同じ作業場所にいる労働者以外の者に対する措置の義務化

同じ作業場所にいる労働者以外の人(一人親方や他社の労働者、資材搬入業者、警備員など、契約関係は問わない)に対しても、以下の措置の実施が義務付けられます。

・労働者に保護具を使用させる義務がある作業場所については、その場所にいる労働者以外の人に対しても保護具を使用する必要がある旨を周知すること
・労働者を立入禁止や喫煙・飲食禁止にする場所について、その場所にいる労働者以外の人も立入禁止や喫煙
・飲食禁止とすること
・作業に関する事故等が発生し労働者を退避させる必要があるときは、同じ作業場所にいる労働者以外の人も退避させること・化学物質の有害性等を労働者が 見やすいように掲示する義務がある作業場所について、その場所にいる労働者以外の人も見やすい箇所に掲示すること

(※)事業者は、一人親方等に対して指揮命令関係にないことなどから、同一の措置は困難な場合、それに代わる措置を求めることとする。

保護措置の主な内容

労働者に対する措置
(現行法令の規定内容)
同じ作業場所にいる労働者以外の者に対する措置
(新たに追加する規定内容)
危険箇所への立入禁止立入を禁止する義務立入を禁止する義務
特定の場所での喫煙・飲食禁止喫煙・飲食を禁止する義務喫煙・飲食を禁止する義務
危険性等に関する掲示掲示して知らせる義務掲示して知らせる義務
事故発生時の退避退避させる義務退避させる義務

注意事項

重層請負の場合は誰が措置義務者となるのか?

事業者の請負人に対する配慮義務や周知義務は、請負契約の相手方に対する義務です。
三次下請まで作業に従事する場合は、一次下請は二次下請に対する義務を負い、三次下請に対する義務はありません。二次下請が三次下請に対する義務を負います。

作業の全部を請け負わせる場合にも措置が必要となるのか?

事業者が作業の全部を請負人に請け負わせるときは、事業者は単なる注文者の立場にあたるため、この作業は事業者としての措置義務の対象となりません。

元方事業者が実施すべき事項

労働安全衛生法第29条第2項で、関係請負人が法やそれに基づく命令(今回改正の11省令を含む)の規定に違反していると認めるときは、必要な指示を行わなければならないとされています。
今回の改正で義務付けられた措置を関係請負人が行っていない場合は、「必要な指示」を行わなければなりません。

配慮義務の意味

配慮義務は、配慮すれば結果が伴わなくてもよいということではありません。
何らかの手段で、労働者と同等の保護が図られるよう便宜を図る等の義務が事業者に課されます。

周知の方法

周知は以下のいずれかの方法で行ってください。
周知内容が複雑な場合等は、①~③のいずれかの方法で行ってください。
① 常時作業場所の見やすい場所に掲示または備えつける
② 書面を交付する(請負契約時に書面で示すことも含む)
③ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録した上で、各作業場所にこの記録の内容を常時確認できる機器を設置する
④ 口頭で伝える

請負人等が講ずべき措置

事業者から必要な措置を周知された請負人等自身が、確実にこの措置を実施することが重要です。
また、一人親方が家族従事者を使用するときは、家族従事者に対してもこの措置を行うことが重要です。
労働者以外の人も立入禁止や喫煙・飲食禁止を遵守しなければなりません。

まとめ

これまで労働安全衛生法に基づく措置の対象としていなかった一人親方等について、新たに措置の対象となることとから、特に建設業及び製造業の関係事業者に対し周知が徹底が重要となります。職場における労働者だけでなく、関係する労働者以外の者の安全と健康についても責任をもって取り組むことが、今後は事業者の責務として重要であることを再認識して頂きたいと思います。

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