一人親方は社会保険に加入できるのか?
建設業は社会保険に未加入の事業者が多いことが問題となり、社会保険の未加入者に対する国土交通省による対策が進められています。社会保険に未加入だと、会社の評価が下がることもあります。
一人親方はそもそも社会保険の加入義務はありませんが、業務や生活の上でのケガや病気、老後の安心に備える意識が必要であることに、変わりはありません。むしろ、社会保険に加入義務のない一人親方だからこそ、現在と将来の安定した生活について綿密に考える必要があります。
なぜ建設業の社会保険未加入が話題なの?
建設業界での、社会保険未加入問題をご存じでしょうか? 建設業界は、他に比べて社会保険未加入率が高い問題のことです。
製造業は約9割。建設業は約6割。これが社会保険加入の実態です。また、運送業では社会保険未加入の場合、「車両停止」という厳しい処分もあります。これらに対し、国土交通省は建設業における社会保険の加入率約6割の低さを問題視してきました。若い世代を含め建設業に人材が集まらない原因としても考えてきたようです。
当然のことながら、社会保険未加入は重大な義務違反であり、行政指導の対象となっています。実際に、国土交通省から「社会保険に加入していますか?」と呼びかける、パンフレットが発行されています。国土交通省の本気度も明らかです。
一方で、一人親方は従業員を雇用しない個人事業主であるため、そもそも社会保険への加入義務はありません。しかし、建設業界で合法的に、安全性を意識して働くには、社会保険について理解することがとても重要です。
公共事業では社会保険未加入の場合は仕事が受けられない
国土交通省は、社会保険未加入業者が多いことが、建設業界に若手の人材が集まりにくい要因のひとつとなることを懸念し、社会保険を管轄する厚生労働省と連携して、対策を進めています。
国土交通省の直管工事では、2015年4月から施工管理台帳を基に、元請業者だけではなく、下請け業者の社会保険未加入が発覚した場合に、建設業担当部局に通報されることになっています。2015年8月からは、入札公告を伴う工事で、元請業者が社会保険未加入の業者と一次下請け契約を結ぶことが禁止されました。
また、公共工事の入札のためには、「経営事項審査」を受ける必要があります。これは、建設事業者の「経営状況」「経営規模」などを数値化して評価する審査ですが、その項目のひとつとして、社会保険への加入の有無があります。社会保険に加入していないとこの項目で減点されてしまうため、審査結果の数値がその分低くなってしまうのです。
また、国土交通省では、元請業者に下請け業者の社会保険の加入を指導するように、通達しています。
建設業者が健康保険に未加入の場合、行政より以下の処分が課されます。
- 許可行政庁から、立ち入り検査時に加入指導を受ける
- 下請企業の場合は、元請企業などに加入状況を確認され、未加入の場合は加入指導を受ける
- 改善が見られない場合には、強制加入措置や監督処分を受ける
下請け企業が社会保険未加入の場合は、請負元が管理監督責任を問われる可能性があります。そのため、社会保険未加入の企業は、元請企業から案件を受注できないケースがあります。社会保険加入は、社員一人ひとりの生活の安全にかかわるだけではなく、建設業者の仕事継続のためにも必須条件です。
建設業は一人親方が多い
建設業界は、元請けから下請け、さらに孫請けへ発注される多重構造です。単独企業のように労務管理が一元管理されておらず、建設業界では社会保険への未加入業者が少なくありません。
建設業では、企業に雇用されず、元請業者と直接契約して仕事を請け負う大工やとび、左官などの「一人親方」と呼ばれる職人が多いのも特徴です。一人親方は、個人事業主として、国民年金と国民健康保険への加入が義務付けられています。
一人親方が加入できる保険・年金制度…一人親方と社会保険…
社会保険は一人親方の場合、現実的には加入しない方が大半です。そもそも一人親方の場合は、個人と会社で折半する保険料をどちらも自分で払うため、費用負担が重くなり、社会保険のメリットがかなり薄れてしまうからです。
現実的に一人親方が加入する、公的な社会保険制度をチェックしてみましょう。
◆国民健康保険
- 社会保険(会社の健康保険等)に加入していない、個人事業主などが加入する保険制度です。
- 社会保険と同様に、保険対象の治療費や薬代が3割負担になります。
- 会社との折半がないため全額が自己負担になること、扶養制度(収入が一定額以下の家族を扶養者として自分の保険に加入させられる制度)がない点で、社会 保険と大きく異なります。
◆国民年金
- 国民年金は、国民全員が加入しなくてはならない年金制度です(厚生年金に入っている会社員や公務員も加入します)。
- 会社員の場合は給与から自動的に天引きされますが、一人親方は期ごとに窓口などで支払わなくてはなりません。
- 国民年金の保険料は一律で決まっています。
社会保険未加入の一人親方はどうすればいい?【一人親方含む自営業者が加入できる社会保険】
会社員と、一人親方を含む自営業者を簡単に比較すると、以下の違いがあります。
◆国民健康保険
会社との折半がないため全額自己負担になることと、扶養制度がないことから、負担額が重いと感じられる傾向があります。
また、あらかじめ給与から保険料を天引きされる会社員と異なり、収入の中から支払わなくてはならないため、余計に負担が重く感じられるかもしれません。
◆国民年金
65歳以降に国民年金+厚生年金を受け取れる会社員と異なり、一人親方含む自営業者は国民年金のみ受け取れます。